#NMNの散歩道（９）　

―緑道―

（8月初めの朝）8月のはじまりは、少しだけ特別な匂いがする。湿った空気に混じって、夏の終わりの気配がほんの少しだけ漂っている。

私はNMNをひと粒、口に含んでから家を出た。それはもう習慣というより、朝の儀式みたいなもの。体の奥が静かに目覚めていく感覚が、緑道の空気とよく合う。

緑道は、朝の光を受けて、葉の一枚一枚がきらきらと輝いていた。蝉の声が遠くから響いてくるけれど、どこか控えめで、まるでこの道の静けさを壊さないようにしているみたいだった。

ベビーカーを押す若い母親が、木陰で立ち止まって赤ちゃんに話しかけている。その声が、風に乗ってふわりと耳に届く。誰かのやさしさが、緑道にはいつも自然に溶け込んでいる。

私はベンチに腰を下ろして、深呼吸をした。NMNが体の中で静かに働いているのを感じながら、この時間がずっと続けばいいのにと思った。

8月の緑道は、夏の盛りと秋の気配のちょうど真ん中にいて、過去と未来の境目みたいだった。そんな場所で、私はただ「今」を歩いている。それだけで、十分だった。

明日は、「浅草橋」

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